2004年11月05日
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実時間を保証するサーバーの話題とTigerの思い出とコミュニケーションの不可能性について

Written By: 川俣 晶連絡先

 古川 享ブログに懐かしいTigerという名前を見かけたので、ちょっとだけ思い出を書いてみます。

 TigerというのはWindows NTサーバベースのビデオ オン デマンド(VOD)のサーバの開発コードネームです。私自身はTigerの現物は扱っていませんが、確か古川さんがスピーチしているセミナーのような場所で解説を聞いた気がします。

Tigerで興味深かったこと §

 Tigerのアーキテクチャを説明されて、けっこう技術的な興味をそそられました。

 古川さんも「そそられる技術的な興味」に敏感な人ですから、古川さんが楽しげに話すことに「そそられる」のは当然のことかもしれません。

 しかし、ビデオ オン デマンドが実現できるからそそられたわけではありません。

 このTigerが、実時間を保証するサーバであるという点がまず興味を惹きました。PCベースのサーバというのは、いろいろな性能を誇示していますが、一定の時間内に確実にデータを返すという機能性は目新しく感じました。ビデオ再生するなら、一定時間内に確実にデータを返し続けなければならないのは当然ですが、これは口で言うほど楽なことではありません。

 そして、その楽ではない機能を実現するために、複数のサーバをツリー状に配置して動的に負荷分散していくアーキテクチャも面白いと思いました。

しかし、S先生はこう言った §

 そのしばらくあと、JISの文字コード関連の規格をやっていたS先生を交えて数人で飲む機会がありました。

 その時、いったいどんな流れだったのか分かりませんが、私が彼にTigerの話題を振ることになりました。その際の意図は、ビデオ オン デマンドではなく、実時間を保証するサーバというコンセプトという話題について話しかけたつもりですが、S先生はTigerという言葉を聞いた瞬間に、あんなものは駄目だと全否定。会話も成立しませんでした。

 正直なところを言えば、本当にビデオ オン デマンドが成立するかは私も疑問であったし、Tigerが本当にビデオ オン デマンドで役に立つかも、当時のハード環境を考えれば断言できないのも当然のことだったと思います。だからこそ、そういう話ではないことを最初に示そうとしていたわけですが、Tigerというキーワードが出た後の私の言葉は1つも聞かれていなかったように思います。聞いて貰えないものはどうにもなりません。

 実は、Tigerというキーワードで最も思い出深いのはこの出来事です。

 コミュニケーションの不可能性を示す非常に印象的な事例でした。

 コミュニケーションできない状況に対処するにはどうすれば良いのか。どうすればコミュニケーションの可能性を高められるかは、私の1つのテーマですが、それに取り組まねばならない理由の1つがこの思い出です。

余談 §

 と、ここまで思い出話を書いて気付きましたが、単語に激しく反応し、コンテキストを見ないというのは、前にアイデアをメモしたインターネット知の欠陥とあまりに酷似しています。S先生は、このような傾向を先取りした先駆的な人物であった、という評価があり得るかも知れません。

そして思わず出てくる言葉 §

 それにしても、まだ動いているTigerのシステムがあったとは。

 世界は広いですね。

 自分に見える小さな視界だけで世界を把握したつもりになることがいかに愚かであるか、それを思い知らされる話ですね。